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展示再開を訴える11作家の抗議声明

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先ごろあいちトリエンナーレ2019本展の出品作家が、
「表現の不自由展・その後」展示の強制終了に抗議し、
作品をボイコットをアピールしました。
以下がその声明文になります。


表現の自由を守るために
2019年8月12日

あいちトリエンナーレ2019に参加する、われわれはアーティスト(文末に署名)は、あいちトリエンナーレ2019の一つの展示すべてを中止する決定は、許容し難い検閲行為であると考え、これを非難する。

8月3日、あいちトリエンナーレの特別プロジェクトである「表現の不自由展・その後」というタイトルの展示が、無期限の公開中止となった。それは、国からの政治的圧力、および問題となっている作品が当該展示会から撤去されない限り、暴力やテロ行為をすると脅迫している匿名の情報源からの圧力によるものであった。

前回の書簡において公的に表明したように、われわれは、トリエンナーレのスタッフおよび検閲された当該芸術作品に対する暴力を扇動しているこれらの威嚇を拒絶する。

ただし、われわれは、展示会のスタッフおよびトリエンナーレの観客の精神的・身体的安全を確保するために、あらゆる予防策を講じなければならないと考える。一方で、「表現の不自由展・その後」が、当該展示会の予定会期末まで公開され、展示され続けることを要求する。

今回の事件における主要な攻撃対象は、キム・ソギョンおよびキム・ウンソンによる「平和の少女像」という作品である。この彫刻は、日本において抑圧され続けている歴史問題である日本軍性奴隷制(婉曲的に「慰安婦」と呼ばれる)に焦点を当てて、歴史的記憶の回復を試みるものである。
われわれは、展示しているアーティストの声と展示されている作品に寄り添うことが、倫理的義務であると考える。

表現の自由は、侵すことのできない権利であり、いかなる文脈においても、独立して保護される必要がある。
自由への攻撃には、以下のものが含まれる。

(1) 河村たかし名古屋市長の、「表現の不自由展・その後」の恒久的中止を求める不適切な発言。
(2) 菅義偉内閣官房長官による、文化庁を通したトリエンナーレへの将来の財政的支援を削減する旨脅迫する声明。
(3) 展示会のスタッフを攻撃する、多数の匿名の電話
(4) 当該展示が中止されない限り、テロ行為をする旨脅迫するファックス。

われわれは、理不尽な威嚇と政治的要求に屈したあいちトリエンナーレ主催者の決定は、表現の自由を侵害するものであると考え、当該特別展に参加しているアーティスト、その他のキュレーターおよび主催者と事前に協議することなく、「表現の不自由展・その後」の展示を中止した彼らの決定に疑問を呈する。
これが「リスクマネジメント」の問題であり、検閲の問題ではないという[トリエンナーレ主催者の]意見には、根本的に反対する。この[トリエンナーレ主催者の]意見は、アムネスティ・インターナショナル日本、美術評論家連盟、国際ペンクラブならびに国内および海外の報道機関によって、公的に非難されているものである。

文化団体として、展示アーティストの権利を守り、表現の自由を保護する責任をあいちトリエンナーレは負っている。われわれは、人々の生命および安全が危険にさらされている時に、これらの責任を果たす決定を下すのは容易ではないと理解している。しかし、公的機関として、関係当局と協働して、展示会のスタッフ、来訪者およびすべての関係者を保護し、その安全を確保する責任もあいちトリエンナーレは負っている。
当局は、本格的な公式調査を実施する責任を負っている。
これは、テロの脅威がある場合においては、標準的なことであると思われる。
当該展示会のある展示を中止する前に、これらすべての措置について考慮すべきであった。

われわれは、決して、あいちトリエンナーレとその展示スペースのスタッフが、今回の事態について責任を負うことを示そうとしているわけではない。
われわれは、彼らと、相互協力的および肯定的な関係を構築してきた。
われわれは、この困難な時期を通して、彼らの多大な努力に感謝し、彼らに寄り添っている。
しかし、「表現の不自由展・その後」が検閲されてから、1週間以上が経過した。この間、主催者は、アーティストとの公開討論を開催することへの不満を示し、われわれは、当該展示の再開の重要性を主張してきた。また、テロ予告に関連して、少なくとも2名が拘束された。しかし、われわれは、検閲された当該展示が再開されるか否かについて、何ら明確な情報を与えられていない。

よって、検閲されたアーティストとの連帯の公式表明として、われわれは、主催者に対し、「表現の不自由展・その後」が公開されない間は、トリエンナーレにおける我々の芸術作品の展示を、一時的に中止することを要求する。

この行動を通して、われわれは、あいちトリエンナーレの主催者が、政治的介入および暴力に屈することによって、表現の自由を侵害するのではなく、「表現の不自由展・その後」の展示を再開し、彼らの価値ある作品と共に歩むことを、真摯に希望する。

表現の自由は、重要な権利である。

(仮訳:菊地和行)

Tania Bruguera(タニア・ブルゲラ/ハバナ)
Javier Téllez(ハビエル・テジェス/ベネズエラ)
Regina José Galindo(レジーナ・ホセ・ガリンド/グアテマラ)
Mónica Mayer(モニカ・メイヤー/メキシコ)
Pia Camil(ピア・カミル/メキシコ)
Claudia Martínez Garay(クラウディア・マルティネス・ガライ/ペルー)
Minouk Lim(イム・ミヌク/韓国)
Reynier Leyva Novo(レニエール・レイバ・ノボ/ハバナ)
Park Chan-kyong(パク・チャンキョン/韓国             
Dora García(ドラ・ガルシア/スペイン)              
Ugo Rondinone(ウーゴ・ロンディーネ/スイス) ※後にロンディーネはボイコットを撤回

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IN DEFENSE OF FREEDOM OF EXPRESSION
August 12, 2019

We, the undersigned artists participating in the Aichi Triennale (2019), condemn the decision to close a full section of the exhibition as an unacceptable act of censorship. The section titled “After Freedom of Expression?”, a special project of the Aichi Triennale, was closed indefinitely to the public on August 3rd due to political pressure from the State as well as pressure from anonymous sources threatening to take violent and terrorist actions unless the works in question were removed from the exhibition.

As we expressed publicly in a previous letter, we repudiate these threats inciting violence against the staff of the triennale and the censored art works. However, while we believe that all precautions must be taken to ensure the mental and physical safety of the exhibition staff and the visitors of the Trienniale, we insist that “After Freedom of Expression?” should be opened and remain on view until the scheduled closing of the exhibition.

The main target of the attack in this case is the work “Statue of a Girl of Peace “, by Kim Seo-kyung and Kim Eun-sung: a sculpture that attempts to repair historical memory focusing on Japan’s military sexual slavery (euphemistically called “comfort women”) a historical issue that is continuously repressed in Japan. We consider it an ethical obligation to stand by the exhibiting artists voices and their work being exhibited. Freedom of expression is an unalienable right that needs to be defended independently of any context.

The attacks on freedom include: (1) Nagoya mayor Takashi Kawamura’s unfortunate comments calling for the permanent closure of “After Freedom of Expression?”; (2) a statement made by Chief Cabinet Secretary, Yoshihide Suga, threatening to cut off future funding to the Trienniale through the national Agency for Cultural Affairs; (3) numerous anonymous calls harassing the exhibition staff; (4) a fax threatening terrorist action unless the section be closed.

We believe that the Aichi Triennale organizers’ decision to surrender to irrational threats and political demands violates freedom of expression and we question their decision to close the section “After Freedom of Expression?” without previously discussing it with the participating artists, the other curators and the organizers of the special exhibition. We fundamentally disagree that this is an issue of “risk management” and not one of censorship, a fact that has been denounced publicly by Amnesty International Japan, AICA Japan, Pen international as well as local and international press.

As a cultural institution, it is the Aichi Triennale’s responsibility to stand by the rights of its exhibiting artists and to protect freedom of expression. We understand that it is not an easy decision to make when people’s lives and security are at stake. But as a public institution, it is also its responsibility to work in collaboration with the corresponding authorities to provide protection and security for its staff, visiting public and anyone involved in the exhibition. It is the authority’s responsibility to undertake a serious and formal investigation as would be standard in the case of any terrorist threat. All these measures should have been taken into account before closing down a section of the exhibition.

In no way do we want to implicate the staff of the Aichi Triennale and its exhibition spaces with whom we have had a mutually supportive and positive relationship. We thank them for their hard work and stand by them through this difficult time. However, more than a week has passed since “After Freedom of Expression?” was censored. During this time, the organizers have been compliant in organizing an open discussion with the artists and we have insisted on the importance of reopening the exhibition. Also, at least two people have been detained in connection to the terrorist threats. However, we have not been given any clarity as to whether the censored section will be reopened.

Therefore, as a public gesture of solidarity with the censored artists, we demand that the organizers temporarily suspend the exhibition of our artworks in the Triennale while “After Freedom of Expression?” remains closed to the public.

Through this action we sincerely hope that the organizers of the Aichi Triennale will re-open the section “After Freedom of Expression?” and continue with their valuable work without thwarting freedom of expression by giving way to political intervention and violence.

Freedom of expression matters.

Tania Bruguera
Javier Téllez
Regina José Galindo
Mónica Mayer
Pia Camil
Claudia Martínez Garay
Minouk Lim
Reynier Leyva Novo
Park Chan-kyong
Pedro Reyes
Dora García
Ugo Rondinone *Rondinone withdrawn his boycott later.

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展示のさい、配慮したこと

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「表現の不自由展・その後」の展示は、作家と作品をより良く活かすことを最優先に考えました。
検閲を受けた作品は色眼鏡で見られがちなので、展示には先入観を与えない工夫を凝らしました。
挨拶文はできるだけニュートラルな装いに、作品説明文も検閲事件に関わる叙述は最小限にとどめています。
検閲事件の詳細は資料コーナーの作家ごとに分類のファイルに詳しく収録しました。要は、検閲事件の博物展示でなく、検閲された作品の美術展示です。
まず作品そのものを観賞していただいて、「じゃあ、なぜこれが検閲に?」という方は資料でじっくりどうぞという趣向です。

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表現の自由回復のために――表現の不自由展実行委員会が望むこと

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 主に日本で起こった検閲や言論規制を受けた作品を集めた展示企画、あいちトリエンナーレ2019の「表現の不自由展・その後」は、大規模な言論テロによってわずか展示開始3日目にして終了に追い込まれました。

いま、「表現の不自由展・その後」の入り口は巨大な壁で塞がれています。しかし、会場内は封鎖される前のまま維持され、私たち実行委員会が交代で保全・見守りを続けています。

まず、私たち表現の不自由展実行委員会は、以下の点でこの「大規模な言論テロ」に対し憂慮すべきとともに社会的犯罪として抗議の声をあげます。

1)作家の作品を公開する権利を奪ってしまったこと

2)展示施設で働くスタッフの方々に対する「言葉の暴力」で心身両面での疲弊を強いたこと

3)美術展示施設の表現の自由を破壊したこと

4)痛ましい京都アニメーションの放火事件を連想させる犯罪教唆で社会的不安を引き起こしたこと

まず今回の件でなすべきは、展示終了までの経緯を詳細に至るまで明らかにし、いまや日本社会全体の問題となってしまったこの「表現の危機」の情報を広く分かち合い、議論を喚起することに思います。そして、私たち実行委員会は、展示再開というかたちでの「表現の自由」を回復することこそが、この「表現の危機」に立ちむかう最良の手段であると信じてやみません。

先日、あいちトリエンナーレ2019実行委員会にお渡しした「『表現の不自由展・その後』中止に対する公開質問状」は、再開のための衆議を分かち合うためのステップと位置づけています。

あいちトリエンナーレ2019実行委員会の「展示終了」という最終決定は、表現の不自由展実行委員会に正式な最終通告がなく、大村知事の記者会見をネット等の傍聴で知らされました。

この相互協議のない一方的な措置は、表現の不自由展実行委員会と出展作家の権利を損ねるものであり、批判の声明を出しました。

これは美術展示の意思決定は公正なものでありたいという思いから出したもので、美術界の改善と公共性の向上の願いが根底にあります。決して、あいちトリエンナーレ2019実行委員会との対立を企図してのことではありません。

この「表現の危機」において求められるのは、結束の力です。先ごろ72組の本展と「表現の不自由展・その後」の作家が合流し、「再開の呼び掛け」を訴えるアーティスト・ステートメントがなされました(8月15日現在83組)。私たち実行委員はこれに強く勇気づけられました。その生まれる過程では、私たちが出展作家の仲立ちをし、かれらが合流した経緯もあります。

また、本件で多くの市民の方、ジャーナリスト・有識者団体からも再開を求める支援の声をいただきました。私たちはその期待に応える責務を重く受け止めています。

今度は、私たち表現の不自由展実行委員会とほぼ途絶えがちとなってしまったあいちトリエンナーレ2019実行委員会との間で対話を回復させ、ともに手を携え、再開のための人事を尽くす番だと思います。

私たちが求めるのは、安全かつ安心なかたちでの再開です。私たちは企画準備初期(4月)から、保安上の問題に対しては、私たちの長年の経験をもとに、専門家の知見もいただき、おそらくは最高レベルの対処マニュアルと注意喚起をし続けてきました。抗議行動もある程度予測していました。

そうした事態になった場合、最も懸念されるのは、最前線に立たされる電話応対される職員の方、会場のボランティア監視員の方たちの心身の消耗です。ですから事前の研修の必要性と心身の消耗のケアの重要性も指摘もしてきました。そうした準備が十分になされていなかったことは本当に残念でなりません。

こちらに加え、今回の事態の詳細な情報開示を受け、より広い専門家の参集で事態の分析をともに行っていきたいと思います。

その過程を経て、ご来場いただく方々には安全かつ安心して作品の鑑賞ができる環境づくりを見出すことができると信じています。

ヴェネチア・ビエンナーレやドクメンタを筆頭とする、海外の国際美術展は、近年社会のタブーを直視する政治性の強い美術表現を集め、世に問題提起を投げかけています。日本の美術展示ではそれがかなり希薄であることがしばしば指摘されています。

あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」にも、そうした世界潮流に呼応する意味合いがあります。本展出品作のなかに含まれる、強制連行や日本軍「慰安婦」、天皇制、在日米軍基地、政治と社会の右傾化、福島の放射性物質汚染、といった主題はまさにこの「日本社会のタブー」そのものです。

そうした意味合いを持つ「表現の不自由展・その後」を、圧力に抗して再開させることは、日本の美術と社会の改善と発展に資するものがあるでしょう。

また「表現の不自由展・その後」の原型である、2015年のギャラリー古藤で始まった「表現の不自由展」は、いま日本社会に蔓延しつつある検閲と規制の問題を扱うことで、この社会に公正さと公共性を確保したいという問題意識から生まれました。今回の件で「言論表現の危機」が改めて明らかとなりました。この事態に対し、私たちは再開によって応えたいと思います。

あいちトリエンナーレ2019実行委員会・大村秀章会長、津田大介芸術監督には継続して対話を呼びかけていきます。一緒に力を合わせ、多くの市民やジャーナリスト、識者の方からの応援のもと、再開を実現したいと決意しています。

2019年8月15日

表現の不自由展実行委員会

アライ=ヒロユキ、岩崎貞明、岡本有佳、小倉利丸、永田浩三